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というか、話を聞かれていたのではないか。
「まさか貴方、ずっと盗み聞きしてたんですか?」
それは不味いだろう。自分は構わないが、近藤さんは正体がバレると困るのでは…?
そう危惧する華乃に、山崎は「まさか!」と手を振った。
「トッシーならともかく、近藤さんに対してそんな恐れ多いことしないよ。ほんと、呼ばれたから来ただけだよ」
「ならいいです」
よくないだろ!と、もし土方がその場にいたら突っ込んでいただろう。
二人の会話に近藤は思わず吹き出しそうになったが、ゴホンと咳払いして誤魔化す。
「山崎くん、急に呼び出してすまないね」
「いーえー。どうしました?」
「その子を小倉くんの部屋まで運んで貰えるかい?」
「了解で~す」
「はあ!?いいですよ!私一人で平気です!」
「と言われてもねぇ。局長命令だからさ。ほら貸して。てか、横抱きとか相変わらず男前だねぇ君」
俗に言うお姫様抱っこをしている華乃に、山崎は感心した。似合ってるからまた凄い。
「……絶対に落とさないで下さいよ」
「あのねぇ。女の子の君よりずっと力があるんだよ俺?」
最初は渋っていた華乃も、千津を想えば男手の方が安心と考えたのだろう。彼女を山崎の腕の中へ託す。
「んじゃ、近藤さん。失礼しました~」
それから華乃も近藤の気遣いに小さく頭を下げると、先に出ていった山崎の後を追った。
「で?新八くんに告白でもされた?」
自室に向かう途中、何でもないようにサラリと訊いてきた山崎に、華乃は眉根を寄せた。
「……別に、彼とはそんなんじゃないですよ」
「ああ、やっぱり振ったんだ。新八くんには可哀想なことしたなぁ俺」
「勘違いしないで下さい。貴方の言葉が無くても、最初からそうするつもりでした」
「あははっ、無理しちゃって。俺を悪者にしときゃあ気も楽なのにね」
「それは別の機会にします」
「え?濡れ衣着させる気満々?」
そんな他愛ない会話をしながら歩いていると、反対側から伊東の姿が見えてきた。
「……ゲッ。ヤなのが来た。俺、あの人とは合わないんだよ」
「私なんて破滅的ですよ」
「へぇ?何が破滅的なのかな?」
華乃の呟きを拾ったらしく、間近に迫った伊東が訊いてきた。すると華乃はすかさず、
「貴方の性格が」
ミシリと、伊東の持つ扇子が音を立てる。
華乃の隣では、山崎が笑いを堪えるように肩を震わせていた。
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