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『ごめんなさい――……』
時は少し遡る。
覚束ない足取りで屯所前まで帰ってきた永倉は、そのまますぐに中へ入ろうとはせず、壁を背に項垂れていた。
『永倉さんの気持ちは凄く嬉しいです。けど、今はやることや考えることが沢山あって色恋に割く余裕がないんです。だから貴方の望むような関係にはなれません。ごめんなさい……』
華乃の言葉が何度も頭の中を駆け巡る。
(……振られた…ん…だよな…やっぱり……)
いつまでも落ち込んでいるなんて大の大人が情けないとは思うが、こればっかりはどうしようもない。
(……てゆーか、総司への返事は濁してたくせに、なんで俺にはああもキッパリと……そんなに嫌だったのか?)
そんな自問自答の末に、再びズ~ンと落ち込む永倉。
その時だった。
「あっれ~~?そこにいんの新八じゃん」
「……どうかされたのですか永倉殿?具合が悪そうですよ」
ハッと永倉が顔を上げると、そこには巡察を終えて帰ってきた原田と斎藤の姿があった。
「左之……一(はじめ)……」
「こんなとこでなぁにしてんだよ?さっさと中入れば?」
「あ……いや…」
「……その様子、何かありましたね?」
斎藤の瞳に剣呑な光が射す。
永倉は慌てた。ただの私情で彼に心配かけては駄目だと。そして、何でもないと言おうとした矢先のこと…
「原田!永倉くんが帰ってきてんのか!?」
彼の元に土方が慌てて駆けつけてきた。どうやら先程の原田の声が聞こえたらしい。
その後ろには、ムスッとした沖田とオロオロしている藤堂もいた。
「お帰り永倉くん。急に飛び出して行くもんだから心配したんだぜ?」
「あ……」
そうであった。
「勝手な行動を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「いや、無事ならいいんだ。それより何があったのか聞かせてくれるか?結局主犯は誰だったんだ?」
土方の問いに、永倉は「は?」と首を傾げた。
「か…いや…小倉に聞いていないのですか?」
先に帰ってきてる筈ではないのか?
「あんにゃろ、帰ってくるなり開口一番にじゃじゃ馬はどこだって訊いてきた後、さっさと近藤さんとこに行きやがってよ」
「でしたら引き留め……」
「られると思うか!?この俺があいつを!」
いや、威張って言うことかそれ。
そう永倉は呆れたが、相手は仮にも副長である為、顔には出さないよう努めた。
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