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目を見開いたままの状態で固まる永倉の傍らで、土方が腹を抱えて爆笑した。
「あっははは!何を言い出すかと思えばっ。おい総司、オメー頭大丈夫か?永倉くんみてぇな善良な人間が、あんな人間の皮被った鬼みてぇな奴に惚れる筈ねーだろ。なぁ永倉くん………………永倉くん?」
一向に返事が無いのを疑問に思い振り返った土方の目に映ったのは、顔を真っ赤にしパクパクと口を開閉している永倉の姿だった。
「……………え?マジで?」
まさかの展開に、土方を含め、藤堂と原田、あの斎藤さえも凍りついた。
そんな中、唯一沖田だけは笑顔で…
「ああ、やっぱりそうですか。今回は邪魔できなかったので、もうどうなることかと思いましたが……良かった。ホッとしましたよ」
「そう…じ……」
まさかこんなところで暴露されると思ってなかった永倉は、地を這うような声で沖田の名を呼んだ。
この時ほど怒りを覚えたことはない。
「総司、お前な……」
「本当なの永倉さん!?」
「嘘だろ新八!?」
沖田に詰め寄ろうとした永倉だったが、いきなり突進してきた藤堂と原田から押し倒されてしまった。
拍子で畳に打ち付けた後頭部を押さえながら、恨みがましい目を彼らに向ける。
「てめぇら……」
「わわ、ごめん!けどなんで小倉さん!?あのお前何様俺様のどこがいいの!?」
「そうだぜ!?どうしてよりによって悪の根源みてぇな奴を……目を覚ませ新八!」
胸ぐらを掴まれガクガクと揺さぶられる。いや待て。
「さすがの華乃もそこまでないだろ」
「「そこまであるんだよ」」
むしろそれ以上にあるんだよ。と、声を揃えて言う二人。
「永倉くん」
土方は目頭を押さえ、余った方の手で永倉の肩を叩いた。
「今まで過酷な労働を強いて悪かった。しばらく休みをやるから、心と身体を充分に癒してくれ」
「……いえ、あの、別に疲れてる訳ではないんですが…」
もう手に負えない。永倉はどうにかこの状況を打破したくて斎藤を見た。
いつも冷静沈着な彼ならば、この場を上手く納めてくれるだろうと。
しかし永倉の希望も虚しく、斎藤は刀を手に部屋を出て行こうしているところだった。
「一!?どこ行くんだよ!」
「………止めないで下さい。永倉殿を散々誑かした挙げ句に袖にした馬鹿を斬り捨てて参りますので」
いやいやいや。
永倉は頭が痛そうに抱える。なぜみんな華乃を悪者に仕立てるのだ。
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