第五章:揺れる想い~決着編~

5/11
前へ
/93ページ
次へ
千津を自室の布団に寝かせ、山崎と再び廊下に出た時のことだった。 「くしゅ…っ」 突然、悪寒が華乃を襲った。 「おや、寒いのかい?」 「……いえ、そうゆうのじゃないですねこれは」 「あ、分かった」 山崎はニヤリと笑う。 「大方、新八くん親衛隊のみんなが君の悪口言ってんでしょ」 「親衛隊!?なんですかその羨ましい隊は!」 「……羨ましいんだ」 てか、そこに食いついたか。 「私だって出来るなら側で彼を守りたいですよ!」 「そっちかい!」 羨ましがるところが違うだろと呆れる山崎。 「ていうか、なんで私が陰口叩かれなきゃならないんですか」 「自分の胸に手を当ててよく考えてごらん。あ、ごめん、当てる胸もないか」 「斬り刻まれたいんですか?」 「冗談!冗談だよ!」 キンと、刀の鯉口を切った華乃に山崎は焦った。彼女はやると言ったら本当に殺る。 「回りくどい言い方はやめて下さい」 「はぁ…まったく。要するにさ、君、新八くん振ったでしょ?総ちゃん辺りが察して鎌かけたのかもよ?あの子、ああ見えて勘が良いからねぇ」 「それは知ってます」 総ちゃんこと沖田総司は、天然そうに見えて中々勘の鋭い男だった。 「けど、それで永倉さんが口を滑らせるとは思いません」 「どうして?気が動転して態度でバレたのかもよ?」 正しくその通りであった。 しかし、華乃は信じられないと否定する。 「冗談。彼みたいな大人でしっかりした人が、私のことでいちいち動揺する筈ないじゃないですか」 「あ~…なんか俺、新八くんが不憫になってきた」 どこまで鈍いのだ。彼の心境を思うと居たたまれない。 「それより山崎さん、悪いですけどもう少しお千津さんを見てて貰えますか?」 「は?なんで?」 「彼女の親御さんに会って事情を話してきます。娘が戻って来なかったら心配するでしょう?」 「君さ…ほんっと、女の子だけには優しいよね」 その優しさをトッシーたちにも分けてあげればいいのに。 やれやれと肩を竦め、山崎は華乃に背を向けた。 「え?ちょっと!どこ行くんですか!?」 「千津って子の親には俺が会ってくるよ。あの子がもし目を覚ました時を考えれば、君が側に居た方がいいっしょ」 「っ…けど」 「大丈夫。家なら分かるから。なんたって俺、監察方だし」 そう笑って去っていく山崎に、華乃は敵わないなと苦笑を浮かべたのだった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4896人が本棚に入れています
本棚に追加