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千津を自室の布団に寝かせ、山崎と再び廊下に出た時のことだった。
「くしゅ…っ」
突然、悪寒が華乃を襲った。
「おや、寒いのかい?」
「……いえ、そうゆうのじゃないですねこれは」
「あ、分かった」
山崎はニヤリと笑う。
「大方、新八くん親衛隊のみんなが君の悪口言ってんでしょ」
「親衛隊!?なんですかその羨ましい隊は!」
「……羨ましいんだ」
てか、そこに食いついたか。
「私だって出来るなら側で彼を守りたいですよ!」
「そっちかい!」
羨ましがるところが違うだろと呆れる山崎。
「ていうか、なんで私が陰口叩かれなきゃならないんですか」
「自分の胸に手を当ててよく考えてごらん。あ、ごめん、当てる胸もないか」
「斬り刻まれたいんですか?」
「冗談!冗談だよ!」
キンと、刀の鯉口を切った華乃に山崎は焦った。彼女はやると言ったら本当に殺る。
「回りくどい言い方はやめて下さい」
「はぁ…まったく。要するにさ、君、新八くん振ったでしょ?総ちゃん辺りが察して鎌かけたのかもよ?あの子、ああ見えて勘が良いからねぇ」
「それは知ってます」
総ちゃんこと沖田総司は、天然そうに見えて中々勘の鋭い男だった。
「けど、それで永倉さんが口を滑らせるとは思いません」
「どうして?気が動転して態度でバレたのかもよ?」
正しくその通りであった。
しかし、華乃は信じられないと否定する。
「冗談。彼みたいな大人でしっかりした人が、私のことでいちいち動揺する筈ないじゃないですか」
「あ~…なんか俺、新八くんが不憫になってきた」
どこまで鈍いのだ。彼の心境を思うと居たたまれない。
「それより山崎さん、悪いですけどもう少しお千津さんを見てて貰えますか?」
「は?なんで?」
「彼女の親御さんに会って事情を話してきます。娘が戻って来なかったら心配するでしょう?」
「君さ…ほんっと、女の子だけには優しいよね」
その優しさをトッシーたちにも分けてあげればいいのに。
やれやれと肩を竦め、山崎は華乃に背を向けた。
「え?ちょっと!どこ行くんですか!?」
「千津って子の親には俺が会ってくるよ。あの子がもし目を覚ました時を考えれば、君が側に居た方がいいっしょ」
「っ…けど」
「大丈夫。家なら分かるから。なんたって俺、監察方だし」
そう笑って去っていく山崎に、華乃は敵わないなと苦笑を浮かべたのだった。
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