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「華乃姉さまは何も悪ないし!昨日は…そ、そや、斬り合いゆーのを間近で見たん初めてやったから驚いただけや。うちは刀置いとる店やから、お侍はんには慣れとるし」
そう矢継ぎ早に言い訳をしても、華乃の暗い表情は変わらなかった。いよいよ突き放されると、千津に焦りが生じる。
「……でも、私と一緒にいたらまた危険な目に遇わせてしまうかもしれませんし、やっぱり私に近づくのはよした方が……」
「平気やて!」
千津は華乃の台詞を遮ると、幼子のように彼女にしがみつき声を荒げた。
「うちを捨てんといて!華乃姉さまと一緒にいたいねん!次は気を付けるし!……ねぇ…ええやろ?」
うるうると涙目で見上げられ、華乃はうっと顔を背けた。髪の隙間から覗く耳が赤い。
(なんだこの可愛い生き物は!)
本当に自分は彼女と同じ性別なのだろうかと疑いたくなる。……でなくて、
(どうしようか……)
昨日考えた結果、説得して突き放そうと決めていたのだが。
ちらりと千津に視線を向ければ、彼女は未だに自分を見上げていた。その瞳が不安に揺れているのを見てとれて、華乃は諦め混じりの息を吐く。……仕方ない。
「……分かりました」
やはり、折れたのは華乃であった。
「そこまでおっしゃるのでしたら仕方ありませんね」
「華乃姉さま!それじゃあ…!」
目を輝かせる千津に、華乃はふわりと笑みを浮かべる。
「これからもよろしくお願いします、お千津さん」
「華乃姉さまぁぁああ!」
そしてガバリと熱い抱擁を交わす二人。
色々と間違っているカップル誕生の瞬間であった。
「じゃ、そうゆうことで、私はお千津さんを送ってきます」
「そうゆうことってどうゆうことだよ」
いきなり部屋にやって来たと思えば、開口一番にそう言った華乃に眉をひそめる土方。
「てゆうか、無断で開けんなって何べん言ったら分かんだよテメェは」
「別にいいじゃないですか。減るもんでもありませんし」
「ああ、色んなもん減らしすぎてもう残ってねぇな」
「あははっ、それもそうですね」
土方の手の中で筆がパキリと折れる。誰のせいだ!誰の!
「まぁとにかく、私はちょっと屯所を空けるんで、もし誰かに不在を聞かれたら適当に言ってて下さい」
「分かった。ま、誰も聞かねぇとは思うがな」
限りなく本音に近い冗談を言う土方に、それもそうかと華乃は頷く。
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