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「あ、華乃姉さま!永倉はんも!」
ようやく姿を見せた華乃に、笑顔で駆け寄る千津。
「お待たせしました。行きましょうかお千津さん」
「うん!」
「じゃあ永倉さん、行ってきますね」
「……やっぱり俺もついて行こうか?」
笑顔で別れを告げる華乃に、永倉は戸惑いがちに口を挟んだ。見送る為にここまで来たが、昨日のこともあるし、どうも心配だ。
そんな彼の気持ちを察し、笑顔でやんわり断ろうとした華乃だったが、
「大丈夫ですよ……あ、」
そこで唐突に言葉を切る。
そういえば、千津は彼のことを慕っていたのでは?
「………やっぱり送って貰います?」
なんとも言えない複雑な心境のまま、華乃は千津に答えを促した。
しかし肝心の千津はというと、華乃の問いも耳に入らない様子で辺りをキョロキョロと見回していた。
「お千津さん?どうしました?」
「や、沖田はんはおらへんのやなって…」
そう残念そうに言う千津に、華乃と永倉は揃って目を剥く。
なんだって?
「え?誰がですって?」
「せやから沖田はんや。最後に会いたかったんやけど……」
いやいやいやちょっと待て。
華乃は額に手をやり空を仰ぐと、ひとつ深呼吸して再び千津と向き合った。
「なぜに沖田はんに会いたいのですか?」
「おい華乃、移ってる移ってる」
横から永倉のツッコミが入る。
「嫌やわぁ、野暮なこと聞かんといて」
両頬を押さえてポッと赤くなる千津。彼女の気持ちは誰から見ても一目瞭然だった。
「え?え?どうゆうこと?永倉さんは?てゆうか、お千津さんって総司さんのこと嫌ってませんでした?」
混乱の余りつい質問攻めになる華乃。そんな彼女の疑問に、千津はうっとりしながら答えた。
「そりゃあな、最初はいけすかない男やわ~と思ってたんやけど、昨日悪いお侍はんに絡まれた時、うちに『君は俺が死んでも守る!』とかゆうて助けてくれてな、その時こう…ビビッときてん。沖田はんはうちの運命のお人なんやって」
キラキラと瞳を輝かせながら語る千津とは反対に、それを聞いた華乃と永倉は互いに肩を震わせ、
((誰だ―――――!!?))
と、ほぼ同時に叫んだ。無論、心の中で、だが。
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