贈碧ノ刻

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水曜日で両親は仕事が休みのはずであった。 兄は病気を患っていて外出は容易ではないが、電話には出れるはずだった。 繰り返されるコール音。 洗面所から聞こえる日常。 漠然とした陰。 「警察」というキーワードだけを残し、オレは意味不明な不安を覚えた。 ただ、コールは冷たさを増幅させ、電話機のむこう側で鳴り響いているだろう実家の、灰色を施した電話機を想像した。 ただ漠然と想像していた。 電話は繋がらなかった。 そして事実、実家にかける電話はコレが最後となった。 このコール音が鳴り響く中、実家には大勢の捜査官がいた。 家族いがいの見知らぬ人達で、実家の部屋という部屋は物々しく蠢いていた。 14時30分。 全てが脆く消えた。
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