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「さようなら」
冬が始まる頃には空が透き通る。彼女が凍える息を白くする頃には一番空の色が冷たくなった。それは決して悲しいことではなくて、ただただ美しい。夏の空の鮮やかさにはない美しさが冬の空にはある。
「さようなら、然様なら御別れとしましょう」
冷たい空に浮かんだ白い月は太陽と向かい合い、何の隔たりもない青を越えて別れを告げる。日は暮れる。燃え尽きるにはまだ早いが、傾いた太陽の空は暗い。冷たい青に月の白さが一層映えた。
「全ては貴女の申す通りに、私はあるのですから」
いつかも同じような空を見ていた。それは覚えている訳がない記憶で、何故なら在りもしない事柄の空。故にそれは妄想の確信で、揺るぎようのない虚偽だった。同じ空を見ただなど語れば笑われるだろう。そう、彼女は笑うだろう。
「しかし、貴女が居なければ私は無きに等しき」
同じ空はない。同じ時はない。同じことなど、厳密に言えば、ない。そう彼女が語ったのは、出会ってから程ない頃だった。常に始まり、常に終わりゆくものが世界だと語った。
「されば世界を終わりとしましょう」
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