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降り注ぐ赤い斜陽。
冷たい風が頬を横切っていく。
前方へ流れていく風景は奇妙で、でも私はもう慣れた感覚で。
和也が運転する自転車は、私を乗せているせいかいつもふらついていて、しかし決して転んだことはなかった。
乗り始めこそ怖かったが、今では安心して背を預けられる。
彼の体温が、ふたりの制服越しに伝わってきた。
あの日――和也と私が付き合い始めて、もう一年間が経った。
和也と過ごす毎日は、過去の私には決して触れられないほどに眩しくて、いとおしくて。
たまには喧嘩することもあったけど、それ以上に幸せで温かくて。
和也と付き合って、初めて愛されることの喜びを知った。
大切にされて、想われることの尊さが理解出来るようになった。
雪はいつか、止むかもしれない。
溶けて減って誰かに蹂躙されて、もしかしたら醜悪な姿になり果ててしまうかもしれない。
それでも、また降らせればいい。
雪が――愛が溶けてしまう前に、また和也を愛し抜けばいい。
そこに和也がいてくれるなら、もう二度と倒れない気がした。
自転車は坂道を下っていく。
昨夜降った雪は町全体を真っ白に塗り潰し、見渡す世界を淡く美しく彩っている。
遠くで煌めく町のネオン。
華やかにライトアップされたクリスマス仕様の噴水がこんなに離れていても確認出来た。
「沙由美」
和也に名前を呼ばれ、んー、と抑揚のない返事をする。
空気を裂きながら進む自転車。
「愛してる」
んー、と再び抑揚のない返事。
車輪が回る音。
視界には和也と私以外は誰の姿もなくて、世界中にふたりしかいないような錯覚に浸る。
「和也」
んー、と私を真似たような返事に思わず顔がにやけてしまう。
逐一可愛いんだよな、と私は和也に聞こえないように呟く。
私は和也に救われた。
一年前の今日――クリスマスに、まるでサンタクロースのように突然現れて、私にとびきりの幸福と愛を与えてくれた。
誰よりも感謝ていて。
そしてアンタを誰よりも――。
「愛してるよ」
まるで銀世界に染み込むように、私の言葉は空気に溶けていった。
和也からの返事はなく、不思議に思って首だけ振り返ってみる。
――前を向いていて表情は定かではないが、耳まで真っ赤にした和也の姿があった。
自分で言い出したくせに、と吹き出しそうになるのをぐっと堪えて夕焼け空に叫ぶ。
「萌えるぞこのやろが!」
愛はまるで雪のように――。
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