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こんなにも――君に焦がれる。
目を瞑れば脳裏によぎる君の姿。
瞼の裏に焼き付いた君の笑顔。
仮面を被った偽りの顔。
不意に見せる君の表情は空っぽでまるで西洋の人形みたいで。
君が友人や異性と愉快そうに話している時には、絶対に見せるけとのない――きっと君の素顔。
君はいつも無理をしているみたいに、不自然で統一性もなくて。
守りたくて、護りたくて。
君のことを想い馳せるだけで、こんなにも心が熱く焦がれる。
どうしようもないくらいに。
――君のことが、好きだ。
俺は息を吐きながら自転車のペダルを漕ぐ。はぁ、と白い息。
緩やかな坂道を上がるために、一回一回力を込めて漕ぐと、根雪に車輪を取られそうになる。
昨夜平地でちらほら降った雪は、山間部では更に降っていたらしく山全体が雪化粧していた。
いつもバスで登校する君は大丈夫なんだろうか、と少し心配して、なんだかストーカーみたいだな、と軽く自嘲する。
坂道を登っていくにつれて、見下ろす町が小さくなっていった。
自然に囲まれた寂れた田舎町。
商店街の真ん中に位置する巨大な噴水があんなに小さく見える。
商店街の至る所にクリスマスツリーが置いてあり、今日がクリスマスイブだと再確認した。
今日は君と話そう。
そう思っても、いざ君を目の前にすると、足が竦んで口内が乾いて上手く喋れない。
どうしようもないくらいに弱い自分が、ほとほと嫌になった。
高校が近付いてくると、カップルで登校する生徒が普段よりも多いことに気付く。
楽しそうで、幸せそうで。
君とそんな関係になりたいけれどきっとすぐには無理だろう。
何故なら君は。
――壊れているから。
君が何人もの異性と付き合っているのは既に知っている。
そして授業中に、或いは放課後に君がひとりきりで泣いているのも知っている。
理由は分からない。
君とは高校から一緒で、それ以前は知らないし、気恥ずかしくてマトモに話せないから。
でも、護りたいと。
君の力になりたいと思った。
俺の本能が、本当の君は優しいんだ、と言っている。
理由はやっぱりわからなくて、だが君は無理して優しさを隠しているようにしか思えなかった。
『今日の放課後
教室で待っていて欲しい』
だから初めてメールを送った。
全てを確かめるために。
君を――救うために。
メールの返信はない。
青空には薄らと下弦の月。
運命が歪んでいく気がした。
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