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そんな萌佳に、俺の隣にいた静夜が告げる。
「はじめまして。橘の許嫁、柊静夜と申します……」
なんか、冷たい吐息を感じるのは気のせいだろうか?
「は、はじめまして……。萌佳だよ……」
なんか、萌佳も青ざめております、はい。
静夜は笑っているが、その周りには極寒の景色が浮かび上がっており、私の廉くんに手を出すな、この女狐め、とでも語っているかの様だ。
「萌佳さん、ですか。それでは、私達急ぎますので……」
「う、うん……」
静夜は萌佳に冷たくそう言うと、俺とマーナの手を引っ張って休憩所まで連れて行った。
「あの、静夜?」
俺は罰が悪そうに声をかける。
「何ですか、あの子は。れんれんだなんて馴れ馴れしいです……」
物凄い怒っとりますな、はい。
「すまなかったな、俺がもっと……」
なんだか申し訳なくて、謝る俺に静夜は告げる。
「今回のは廉くんは悪くないです。あの萌佳さんとかいう方が悪いんです……」
確かに、初対面だった昨日から俺も萌佳のあの馴れ馴れしい態度には苛っと来たが。
「もう行きましょう」
静夜は余程萌佳から離れたいらしく、そそくさとホームセンターから出ていった。
「待てよ、静夜!!」
「お嬢様、お待ちくださ~い」
俺とマーナはそんな静夜に慌ててついて行く事しか出来なかった。
その夜、メールで今日の出来事を虎に報告した。
『お前、女難になりつつあるよ』
そう返ってきた。
確かに、静夜が来てからこの三日間だけで、俺は彼女によって恐怖を感じさせられたりしている。
けれど、それを嫌とは感じない。
それは俺が子供の頃の記憶を取り戻したからというのもあるが、静夜が本当に俺を好いてくれているのが伝わってくるからだ。
他にも実は一人暮らしが寂しかったという情けない理由もあるが。
兎に角俺は、
『女難か。確かに、そうかもな』
とだけ打って、本心は隠しておく事にした。
そのメールの虎からの返信には、
『そうか、頑張れよ。腹減った』
と書いてあった。
腹減った書かれたくはなかった……
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