『俺』の中の『あたし』

2/14
前へ
/77ページ
次へ
静夜がやって来て、二週間が過ぎた。 始めの頃こそ多少の戸惑いがあったものの、今は慣れてしまった。 二週間という時間は、俺にとってはちょうどいい長さの様だ。 この二週間の間に、俺には一つ日課が増えた。 それは、朝のウォーキングだ。 静夜達と一緒に暮らし始めて三日くらいが経過した頃、俺は自分の体重が一気に○kgも増えていたことに愕然とした。 たった三日とはいえ、俺は静夜の作ってくれる食事が美味しすぎて、通常の三倍は食べてしまっていた。 なんたる不覚、せめて元の体重にと静夜やマーナを連れて、近所の城跡公園のお堀の周りを歩く事にしたのだ。 朝のウォーキングは結構清々しい。 まあ、本格的な冬も近く、差し込む様な寒さが頬を貫くが、挨拶を返してくれたり話しかけてくれる人達がいたりと、そんな何気ない温かさがそんな寒さを和らげてくれた。 静夜やマーナもそれが嬉しい様で、ウォーキングの時間になると、子供の様にはしゃいでいる。 そんなウォーキングの最中に必ず出会う人物がいる。 「おはよう、廉くん!!」 豪快な熊の様な男。 名前は浅見熊五郎【あさみくまごろう】。虎の父親だ。 常にパワフルで何事にも怖じ気づかない大男で、周りからは『浅岡の熊さん』と呼ばれ、親しまれている。 因みに風貌に似合わず、玩具屋を経営している、子供好きなおじさんでもあり、マーナはいつも可愛がってもらっていた。 「熊のおじさん、おはようなのです」 「マーナちゃん、おはよう。静夜さんも元気そうだなぁ」 「おはようございます、熊五郎さん……」 俺達と熊五郎さんは合流すると、いつもそこから一緒に歩くことにしている。 「虎は今日は朝練でしたっけ?」 「いや、彼奴今日は朝練ないから公園の中で自主練してるんだ」 その後、和気藹々とウォーキングを続け、あっという間に時間が来てしまった。 「若様、お嬢様、そろそろ戻らないと……」 「ああ」 「熊五郎さん、私達はこれで……」 「また明日なのです」 「おう。今日も虎をよろしくな」 俺達は熊五郎さんと別れ、登校準備と朝食の為に帰宅した。 この時、俺も静夜も桃色の旋風がその日学校に襲来することなど知るよしもなかった……
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2981人が本棚に入れています
本棚に追加