午前十時

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男は駅前の広場のベンチに座っていた。 人通りは思っていた以上に多い。 あるいは今日は休日なのかもしれない。 男は曜日を確認する生活とは無縁だった。携帯の日付は随分前から変わらなくなっていた。 マルボロに火を付けると何人かの通行人が顔をしかめていた。 喫煙に対してかもしれないし、こんな時間に特に何もしていない自分に対してかもしれないし、元からしかめっつらなのかもしれない。あるいは全部かもしれない。 七通り。ざっと考えて七通りの可能性がある。 男は考えた。 自分はどの可能性を選ぶこともできるのだ、と。 男はそうやって自分を慰めた。
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