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「卵?作家?」
会話の内容に追いついていけなかった。
きょとんとしていると、一輝が笑いながら説明した。
「俺、大学卒業後に出版社に就職したんだ。で、こいつの担当になったんで今日、原稿を取りに来たわけだ。」
「!」
驚きを隠せなかった。
昔、放課後の図書室で一輝が偶然にも同じ作家が好きだという共通点を持った真琴は、彼と文学についてお互いに熱弁していた。
熱弁はいつしか将来の話になり、真琴と一輝は出版社に就職して多くの作品を間近で読んで触れ合いたいと語っていた。
この時から真琴は二年上の一輝に好意を抱き、それはいつしか『恋』に変化していた。
告白することもなく、ただの先輩と後輩の関係を続けていた真琴は、玉砕覚悟で一輝の卒業式に告白するつもりだった。
今となっては叶わぬ夢になってしまったのだが。
遠くで一輝を見る度に切ない気持ちになってしまう。
周囲の人間と同じようにため口で話してもらい、屈託のない笑みを自分にだけ向けて欲しいというよくも出てきた。
淡く切ない片思いに、真琴は今でも引き摺っている。
一人、過去に浸っていた真琴は一輝の声で現実に戻った。
「沢海?どうした?」
「いや。特に・・・。」
「そっか・・・。しっかし、驚いたぜ。聞いたぞ?奥口から」
「?」
奥口とは、真琴が転校するまで同じクラスで仲が良かった友達だった。
現在、彼とは一切連絡を取っていなかったため、苗字を言われてもピンと来なかった。
「ご両親が亡くなって、東京の親戚に引き取られたって。しかも学園祭が終わった後だろ?なんでさよならの一言も言ってくれなかった。」
「すみません・・・。」
「まあ、仕方がないか。俺も受験やら学園祭準備やらで忙しかったからな。」
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