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「佐嶋よ…。」
言いかけて、小泉が小走りに入ってきた。
「立花さん。賊は七人。今集まっているのの他に何人かいるようですが、江戸には入っていないようです。」
大きく煙管を吸い込み、意を決した顔で灰をぽんと落とした。
「佐嶋、小泉も聞いてくれ。この事件、この四人で片づけようや。絵図はこうだ。弥平が見廻り中に達磨の野郎を見つけた。こいつは小泉、お前がかねてより調べを進めていたヤマだ。だから奴らが《七人しかいない少数盗賊団》ってぇ事を知っていたんだよ。」
瞠目する小泉を気に止めることなく参護は続けた。こういう時の参護は真面目なのか、おどけているのか解らない淡々と、かつ物腰は熱いような、周囲を引き寄せる技を持っている。
「今晩、押し込みをやらかそうって奴らだ。今時刻酒と女を貪るってぇ事は、暫くしたら仮眠をとるだろうよ。そこでだ。奴らのお株を奪ってやるのよ。寝込みを襲うのは盗賊の常套手段じゃねいか。七人程度なら俺と佐嶋二人で十分だ。」
佐嶋には、ここまで聞けば参護の考えが手にとるように解った。堀帯刀に仕える身分同士ではあるが、筆頭与力とそれ以外とでは風当たりも違う。何か熱いものが込み上げる佐嶋であったが、本能的にこれを堪えて参護の話に割って入った。
「立花さん。今回は弥平と小泉に花を持たせると言うことですね。」
小泉は呆気に取られたというか、自分だけ話が見えない状況に若干苛立ちを覚えながら不思議そうな顔で二人の言葉を聞いていた。
「佐嶋、タダ働きになっちまうが、良いよな?」
これを聞いて小泉もようやく理解出来た。
〈つまり、弥平と、俺と、二人で達磨に縄を撃つ。その他一味は立花さん達が引き受けてくれる。で、この捕縛は石田と俺と《二人でやったこと》にする。ということだな。〉
小泉も何故こんなことをするのかなんて聞いたりはしない。やはり同心の中でもずば抜けて頭の切れる男だけに、参護も感心していた。こればもし弥平なら、こうはいかない。納得いかない事や疑問があると矢継ぎ早に、
「何で?」
と子供の如く喚くはずだ。まぁそこが弥平の個性でもあるのだが。
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