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参護は目一杯になった煙草盆も気にせず新しい草を煙管に詰め込みながら弥平からの合図を受け取った。ゆっくりと腰を上げ右手に五井前原大刀六尺を持ち肩に担ぐようにして階段を降りていく。参護愛用のこの刀は拵えに全くの装飾は無く、束の部分でさえ粗削りの樫に釘打が四本剥き出しで打ってあるだけである。
「さぁて、俺とお前はここにいねぇ事になってるんだな。」
頭巾を深々とかぶり、一見ではどちらが盗賊かわからない出で立ちで参護と佐嶋は弥平の待つ二階座敷へ目をやり、人目に止まらぬよう迅速な足取りで駆け上がった。
「いいか、お前等二人掛かりで達磨に縄を打て。手下共は捨て置け。」
頷くと同時に襖が音もなく開く。十二畳ある座敷の奥に顔を赤らめでっぷりと太った躰を投げやりまさしく達磨そのものが眠っていた。部屋の異変に気づく様子もなく、女の躰を貪った感触が残っているのか、腰の物がぴくぴくと波打っていた。
弥平が猿轡を手に取り、小泉が脾腹に当て身を喰らわすと同時に、顔全体を覆う。一瞬だけ目を覚ました達磨だったが思考回路は働く間もなくまた意識を眠りの中に落とした。あとは弥平が得意の捕縛術で縛り上げると、異変に気づいた手下が状態を起す。その刹那、また前のめりに倒れ込んだ。部屋の隅に陣取っていた参護が、鞘に収められたままの五井前原六尺を頭に振り下ろしていた。
「弥平、そっちが終わったなら残りを連縛で捕らえな。俺達はそろそろ消えるぜ。」
行灯の灯は入ってない暗闇の中を見事な打縄であっと言う間に手下六人を縛り上げた。
役宅ではもう宿直の同心しか残っておらず、夜更けも浅いと云うのに堀帯刀は寝酒を煽っていた。 息高々に小泉が捕縛の報告を白州の中から叫ぶと、宿直の同心、高倉勝正が慌てて駆け込んできた。堀帯刀に取次を高倉に頼み、小泉は白州の中程に達磨達七人を座らせた。達磨の甚佐はすっかり意気消沈し、これから自分がどうなるのか身を震わせている。手下一同同様である。そこに弥平が達磨に耳打ちをした。
「おい。俺と賭けをしないか?」
どういうことだと、言葉を出さずに聞き返した達磨は、怪訝そうな態度で弥平を睨みつけた。
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