花も団子も

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「お前が死一等を免れ、遠島、あるいはその他の罰になるかどうかだ。」  鼻で笑うとはこういう事だと云わんばかりに深い息を吐いた。 「旦那。自分で云うのも憚るがおいらは畜生盗き専門、打ち首以外の道があるものかい。そんな張り甲斐のない賭けに誰が乗るんだい?どうせこの命も明日の朝までだろうよ。」  弥平も肝は座ってい、ぐいと達磨の首根っこを掴み引き寄せ一気にまくし立てる。 「俺はお前が免れる方に賭けるぜ。どうだ?丁半揃ったろ?もしお前の云うとおり死一等なら、お前を今晩逃がしてやる。この賭、勝っても負けてもお前は得するんじゃないか?」  一本につながった眉が、ぴくぴくと脈打つ。 「本気にしますぜ。旦那。それじゃあおいらが負けたら何をするんでぃ?まぁ見当はつくがな、でも良いのかい?十中八九おいらの勝ちだぜ。その場合、旦那の知りたい情報は聞けず、おいらは雲隠れ、切腹ものですぜ。」  達磨の感づいた通り、弥平が欲しいのは他の一味の居場所と、盗み取った金の在処である。頭を無くした悪党は、統率のないタガが外れたまさしく無頼者の集まりになってしまう。一番恐れるのは、さらに凶悪な犯罪を起こす事である。 「この賭、乗ったと云うことだな。」  達磨が浅く頷くと同時に白州に堀帯刀が寝間着姿のまま出てきた。後ろには先に帰っていた佐島がついている。  休みを邪魔されて鬱陶そうな不機嫌顔の堀は白州に目をやると、達磨の顔を見るや、 「おい、こそ泥。」 と、罵った。それでも仕事なのだから形式上の取り調べを行う。いや、取り調べと云うより、ただ一方的に堀の決めつけ、先入観、愚痴も混ざっているだろう言葉を口走ったものである。 〈こいつが噂のほったてわきか。〉  達磨一味の失笑が聞こえてきそうな、だらだらとした時間が過ぎ、いよいよ処罰が言い渡されると、誰よりも高倉が一番驚いて、佐島に駆け寄り口をバクバクさせた。 「達磨の甚佐、及びその一味。その方ら八丈島遠島を申しつける!」  言い放ちそそくさと自室に引っ込んでしまった。予定調和、この場にいる佐島、弥平、小泉の三人だけがそう感じていた。弥平達が役宅に連行する数刻前、佐島は一足早く戻り堀の晩酌相手を勤めてい、ある西町奉行の話を講じていたのである。
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