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「…あルじ……?」
その時、呼んでもリューゴから返事はなかった。
疲れきった顔で部屋に入り、出雲に近寄り顔を見ては少々眉間に皺を寄せ、ゆっくりとその場に膝をつき、ベッドに肘を乗せ両手を合わせてはそれに額を預け、大きくひとつため息。
何かあったのだろうか。
肩を小さく震わせ、とても苦しそうな呼吸をしては、今にも出そうな声を下唇を噛み締め必死に堪えている。
(…あア、泣いTEいルノか。)
出雲が彼のその表情を見たのは恐らく初めてだった。
あの時、初めて会った日も似たような表情をしたが、今日は一層とひどい。
(泣くな、主…。)
なくなりかけていた感覚を必死に思いだし、出雲は左腕を持ち上げる。
コードが邪魔でうまく動けないが、この際一本くらい抜けても構わないと思った。
ようやっとリューゴの頬に届いた醜い手は、涙をそっとすくいあげた。
それにハッと気が付いたリューゴは、慌てて涙を拭って出雲の顔を見る。
「…すまんな。」
心配そうな出雲の表情に答える様に、リューゴは大事ないとニコリと微笑んで、醜いあまりに誰も触りたがらなかった彼の手をギュッと一瞬強く握り、元合った位置に戻してやる。
結局何故泣いていたのか分からなかった。
それでも主の笑顔が見れたので、今は良しとしよう。
-END-
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