階段其の一

2/2
前へ
/11ページ
次へ
それは、マンションから三階建ての今の家に引っ越してから迎えた、三度目の夏のある昼下がり。 三階にある寝室で微睡んでいた私は枕元に置いてあった目覚まし時計で今の時間を確認すると、二階にある洗面所で顔を洗う為に階下に下りようと、眠い目を擦り物思いに耽りながら、寝室を出てすぐ右手にある階段に足を踏み出した。 三段程下りた所で、次の段に踏み出した足の踵に激痛が走り、次いで一瞬の浮遊感の直後、背中に、お尻に、踵に断続的な激痛を感じた。 「あ―――――っっ!!!!」 ―ガタガタガタガタガタッ!! 痛みを感じると同時に出た悲鳴と耳障りな音を聞きながら、私は階段を滑り落ちていく自身の体と迫り来る二階の床を見ていた。 二階に着いた時、ほんの数秒間に与えられた衝撃に悲鳴を上げ、お尻を抱えうずくまるしかなくなっていた。 私がうずくまると殆ど同時に家族が何事かと私のもとへ集まって来た。 「…大丈夫?」 「また、階段から落ちたんか?」 「キャーっておもきし聞こえたけど」 母が、兄が、弟が口々に言って来る。 私は、 「…大丈夫」 「…うん」 「あーって言うたんやけど…」 そう、それぞれに返しながら、唯ひたすら痛みを堪えていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加