第一章~江東の朱氏~

4/8
前へ
/303ページ
次へ
…朱桓が孫権の側に仕えてしばらくした頃、余姚県〈ヨヨウケン〉という場所の県の長が病死し、空席である話が孫権の耳に入った。 孫権は朱桓を呼んだ。 「休穆よ、わたしは君に任務を与えようと思う。どうかな」 朱桓は頷いた。 「何なりとお申付け下さい」 「では余姚県で県の長官の欠員が出た。君がそこに赴き、任務につくのだ」 朱桓の片眉がぴくりと動いた。 「わたしに県の長となれ、そうおっしゃるのですか」 「そうだ。不満か?」 朱桓は慌てたように首を横に振り、礼をとって言った。 「…いえ、不満などありませぬ。抜擢して頂きありがとうございます」 孫権は満足して頷いた。 「わたしは休穆に期待している。無事に任務を成し遂げたら、こちらに呼び戻すから頼んだぞ」 「分かりました。では早速準備にかかります」 「気が早いのう。急がせるつもりは無いから、行政官に状況を聞いてから赴任しても良いのだぞ」 「いえ、やはり現地に行ってこそ分かる事もございます。すぐに出発する事をお許し下さい」 孫権は頷いた。 「よし分かった。好きにするが良い」 朱桓は礼をとって退出し、足早に自宅に戻るのだった。
/303ページ

最初のコメントを投稿しよう!

660人が本棚に入れています
本棚に追加