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…ある日、朱桓は虞妙以に聞いた。
「君はどうしてここを離れようとしないのだ?その知識があれば、もっと大きな町でもやっていけるだろうに」
妙以は苦笑いを浮かべた。
「わたしはそんな大きな事は望みません。ただ、誰かがわたしを必要としているから、ここに居るのです」
「…そうか…」
妙以は向き直って言った。
「県長様はいずれここを出て行かれるのでしょう?」
「そうだな」
妙以は頷いた。
「県長様のような方はもっと偉くなって下さい。皆の事を思いやれる方が上に居て頂かないと…」
朱桓もまだ若い。
このように直接的に誉められると、少し照れくさく思ってしまう。
思わず視線をそらした朱桓だったが、思い切ったように切り出した。
「もし俺が…」
その時、たまたま周蘭が彼を呼びにきた。
「県長様、会議の時間です。お戻り下さい」
朱桓は周蘭の方を見て何か言おうとしたが、それを止めてため息をつくと、役所に戻って行くのだった。
その後ろ姿を見ながら妙以はため息をついた。
しばらく彼女は、朱桓が何を言おうとしたのか気になって仕方が無いのだった…
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