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夜の電車‥
車両にはぽつぽつ人が座っていた…
走り出して数分
長髪の小柄な男が通路を機敏そうな早足で過ぎていく。
目は前を向いているが手足は何かものにすがるように動いていた。
男は壁に張りついては車両間のドアに張りつき
体で押し退け
そうやって何度も行き来した。
呂律もきかなくなっていて途切れ途切れに聞こえる声はそこにいる誰もが感じるそれ以上の意味以外
もうなんの意味さえもたなかった。
俺の後方の
テニスコートで日焼けしたひとりの女の子に近づき
窓に手をのばすと顔を近づけた。
覆い被さる男のフラフラ揺れている小さな背中は
しましまのネオンと薄汚い電車の騒音に紛れた路地裏に
無くしたナイフを見つけた様を思わせた。
俺はその男の背中にとっさに駆け寄ると彼はその女の子から離れ俺の向く方へ歩き続けた。
もうやめちまえよ
そうやって
また自分をせめるのかい
駅に着いた。
風が光に混じって俺の身を流れていく。
流れる窓の男は俺の目を見ていた。
目を反らすことなく向き合ってみた。
俺にある一分の恐怖は彼にとって何の役にも立たないであろう。
たったひとりの俺には好奇心も微塵もなかった。
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