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その日は、クラス替えや先生の話だけで半日で終わりだった。
しかし部活によっては午後から活動があった。有紗の所属する美術部もそうだった。
「有紗?お弁当持ってきた?」
美術室に向かう途中で、明日香が有紗に問いかけた。
「…作ってきた」
「有紗は凄いね~料理もできるし、絵も描けるし、成績だって…あ、成績は平均的だったか」
明日香が笑いながら話を続けていたが、有紗は黙って隣を歩いているだけだった。明日香もそれほど気にした様子も見せず、話を続けた。
「有紗~明日香~」
廊下をパタパタと走りながら尚美がやってきた。尚美は明日香に飛びかかったが、ひらりとそれを避けた。
「も~避けなくてもいいじゃん」
「まともにぶつかったらお弁当ひっくり返っちゃうじゃん」
尚美が顔を膨らませた。
「む~有紗は避けないよね~?」
「…避ける」
小さな声だがはっきりと答えた。
「うわ~私ショック~」
尚美は少しよろめきながら後ろに下がると、ちょうどその時男子の集団が走り抜けていった。そのうちの1人が尚美とぶつかり尚美の鞄が飛ばされた。
「あ~!?私のお弁当~!」
「あ、悪い」
それだけ言って彼らは走り去っていった。
「尚美、大丈夫?」
「お弁当~…」
明日香が話しかけるも、尚美は無惨にグシャグシャになった自分の弁当を見ていた。
「…あげる」
「へ?」
有紗が尚美にそう言った。
「全部くれるの?」
「全部はダメ…少しなら…」
「有紗~優しい~」
尚美が有紗に抱きついて体いっぱいに喜びを表現している。
「ほらお2人さん?早く美術室行こ?前島先生待ってるよ」
明日香の呼びかけに尚美が有紗から離れ、今度は有紗の右手を掴んだ。
「ほらほら、鬼に怒られる前に行こうね~?」
尚美に言われるがままに、有紗は引きずられるように尚美についていった。
「鬼って言わないの~!」
明日香の叫びが廊下に響いていった。
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