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ふたつ目の条件を言い出した途端、青山の態度が変わったのに白鳥は気付いた。
「波多高男子の…その…、雨宮先輩を……紹介して欲しいなぁー…なんて」
「………」
白鳥は呆れた顔で青山を見つめた。その冷たい視線に青山は「別にいいじゃない!好きなのよ!!」と、両手で顔を隠しながら言った。
白鳥は溜め息を吐きつつ「別にいいけど?」と答えると、青山は一層黄色い声を上げて喜んだ。
白鳥の思う青山は『波多高男子』などには興味がないとばかり思っていたから、拍子抜けに苦笑を漏らした。所詮ミーハーか、と頭の隅で思う。
「あんま和弘に期待すんなよ?」
恋人持ちで精神的問題児だし、と小さく青山に言ったが、紹介させてもらえると聞いてから過剰に喜んでいる青山には聞こえていなかったみたいだった。
「あ、授業!!」
青山が急いで腕時計を見たら、針はもう一限目の終わりに差し掛かろうとしていたところだった。
「忘れてた。ここの音楽室ってチャイム聞こえにくいんだよねぇー」
「それを早く言ってよ!!」
青山は頭を抱えてその場へ崩れ落ちるように座り込んだ。
「いいじゃない、一回ぐらい授業サボっても」
「よくないわよ!」
授業を一回くらい受けないくらいで騒ぐ目の前の女に表情をしかめる。そんな大事な授業だったのだろうかとか、好きな先生の授業だったのかなとか、色々と考えていたら青山は少し震えた声で、噂…と呟いたのに気付いた。
「噂が…なに?」
「一時間も白鳥先輩といたなんて…絶対にいい噂になるとは思えないわ!それに私は雨宮先輩がいい!!アンタとなんて死んでも嫌!!」
その発言にさすがの白鳥も胸を痛めた。わざとらしくリアクションして見れば、「俺も罪な男~」と嘆く。
ケタケタと気にも止めない様子で笑いながら音楽室を白鳥は出ようとして、扉の前で青山にもう一度振り向く。
「人の噂も四十九日と言うじゃない、気にしない気にしない」
口許に人差し指を立ててニッコリと白鳥は言った。あと四十九日もあるのだとうなだれると、また白鳥から言葉が続いた。
「これから半年間宜しくね、千里ちゃん」
その一言に青山は顔を青くした。
自分から言った条件に墓穴を掘った自分を何度も罵った。そんな自分を楽しそうな表情で見下げる白鳥を見上げると、またねと手を振って去って行った。
青山には、一限目終了の鐘は遠くから聞こえた気がした。
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