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波多高男子はいつものようにメンバー揃って、女子に群がられながらも登校していた。昨日の白鳥と稲村の口論からか、二人は距離をとって歩いている以外変わりはない。そして、白鳥の機嫌がいいのも周りが見て一目瞭然だった。
その様子を見て、稲村が雨宮に囁く。
「ねぇ、何であんな機嫌いいのよ…もしかして、例の子に何かしたとかじゃないわよね?」
「一切何も聞いてないのよね、俺にもさっぱりで…」
二人が白鳥の後ろで小さく囁いついると、いつも以上笑顔の白鳥が振り向き、「それがね」と割り込んで来た。雨宮と稲村は驚き口を閉ざす。
「逆に脅されちゃって…案外としぶといんだぁ、あの子」
後頭部を掻きながら苦笑を洩らすが、その表情には楽しくてしょうがないといったオーラが出続けていた。
その表情に稲村は拍子抜けした。
「じゃぁ…暴力とか、してない?」
「まっったく!」
「本当に?」
「本当だよ」
それを聞いた稲村は大きな溜め息を吐いた。一安心したのか、雨宮の腕に抱き付いて顔を埋める。
「良かったぁ」
そう呟くと緩く笑みを零す。
それを見た白鳥は口を尖らせ二人の間に割り入った。
「普通、今の流れだと抱き付く相手は僕じゃない?」
それを聞いた稲村は苦笑を浮かべると白鳥に抱き付くと、「我儘ね」と呟く。
稲村が白鳥に抱き付いている時に、白鳥が雨宮に向かって口ぱくで「後で僕の所に来て」と動かし、人差し指をクイっと一度引いた。
稲村を取られ膨れっ面だった雨宮は、自分に稲村を抱き付かせた理由が分かると、おもむろに頷いた。
朝のホームルームが終われば、雨宮は稲村に用事があると教室を抜けた。二人はいつも一緒にいるため、雨宮一人の姿は珍しいのか後ろから、女子数人が後を追っていた。
雨宮がどう振り切ろうか悩んでいると、白鳥が雨宮の肩を叩いた。
それに気付いて振り返れば女子の姿はなかった。白鳥が追い払ったのだろうと知ったのは、男子トイレに行ってからだった。
二人はタイルの壁に背をつけて向き合った。雨宮は自分が呼ばれた理由を問い掛ける。
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