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真面目な表情で自分を見つめる雨宮に、稲村は肩をびくっとさせた。 だが視線を外す訳にもいかず、自分も怖々と焦点を合わす。 そんな表情はあの日以来見た事無かったから。 「か、和弘?いきなり何よ」 「いきなり、じゃねぇ…」 雨宮は手を掴もうと机の下にある稲村の手を求めた。やっと稲村の右手を掴んだ雨宮はホッと表情で微笑んだ。 稲村がみじろぎし、繋がれた手を離そうと体を引こうとしたら、雨宮はそれを逃さない様にとそれ以上強く握った。 その行動に逃げる事を稲村は諦めた。 「俺、あきじゃねぇと嫌だ。ちゃんと守るから…」 「和弘…?」 「だから、ずっと…」 そこまで言うと一限目の授業、現文の担当教師の下川(顎には青髭、分厚い眼鏡の気持ち悪いと悪評の先生)が、授業開始時間を遅れたからといって、息絶え絶えで廊下から飛び出して来たものだから、言い出しかけた雨宮は口を噤む。 「悪い、遅れた…っ。授業始めるぞ」 そう下川が言うと、両手一杯に教材を抱えたものを教卓に落とした。 「…ちっ」 雨宮は舌打ちし、稲村に「ごめんね、また後で」と言い、黒板のある前へと体を向けた。 稲村は安心した様な、そして足りない様な溜め息を吐き、雨宮の背中を見つめた。 その先は、きっと自分の言いたい事と違うと知っているから。
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