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手を繋いだままだと言う事に青山は気付いた。離そうと二、三度指を中で動かしたが、白鳥は離してくれる素振りを見せなかった。
青山は諦めたのか、小さく溜め息を吐きながら床に目線を落とした。
すると急に白鳥が教室の中を横断するように歩き始めた。
くっと手を引かれその後ろをついて行くと、青山の席に向かっているのに気付く。その席には、まだ顔と名前が一致していない女子が座っていた。
その女子は青山をチラリと見れば恐る恐る白鳥に移ったのに気付いた。
「ねぇ、そこ退いてよ。邪魔。」
白鳥は冷たく言い放った。
女子は驚きヒュッと息を吸い込めば、ガタガタと音を立てながら席から腰を上げ逃げた。
「ちょっと先輩…言い過ぎ……」
「しっ、黙って」
青山が小さく呟くと、自分の席に腰掛ければ白鳥の足を小突いた。それを白鳥は爪先で払って黙らせた。
すると白鳥は教室全体に視線を泳がせ、さっきまで愚痴を言っていた群れに向ければ止めた。
青山は白鳥がどのような表情をしているのかは、背中越しでは分からなかった。ただ、教室の生徒の顔からにして、笑っている訳ではないのは分かった。
「つーかさぁ、お前等…超ウザいんだけど。」
睨み付けられた女子達はびくっと肩を震わした。
「さっきから聞いてたりゃあ…群れてる事しか出来ねぇ馬鹿共が。俺の女に何してんだボケ。」
静かに罵声を浴びせながら淡々と述べた。叫ぶ訳でなく、怒鳴る訳でもない。ただただ静かに言葉を並べる白鳥に、教室が静まり返った。
「俺が気付いてねぇって思ってるの?…あんま、ナメないでくれる?」
そう言うと白鳥は腕を組み近付いていった。女子達は身を寄せ合い白鳥を恐怖のまなざしで見上げた。
真ん中にいた女子の額に白鳥が人差し指を当てると、緩く押した。「許して…っ」と小さく言うのを、白鳥は微笑んで受け止める。
「ヤだね。俺…性格ドブスって、大っ嫌い。」
そう言い終えると、その女子の耳に口許を寄せた。何かボソボソと呟き、白鳥が離れたかと思えば、急に涙をボロボロと流し悲鳴をあげた。
白鳥は満足気に青山に振り返れば、また片目を閉じて青山に合図し、こう言った。
「今日から俺のオンナだから」
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