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「は…はぁ?せんぱ…」
―今日から俺のオンナ?
青山は椅子から立ち上がって口をパクパクとさせ白鳥を見つめた。すると白鳥は青山に抱き付き、「黙ってろ」と耳元で囁く。
D組の皆が見ている前で白鳥は青山の首に手を回した。
青山は頬を赤らめた。
大して背の高くない白鳥に、むしろ自分より小さいのではないかと思う相手に、頬にキスされた。
「俺ね、千里と付き合ってんだ。だから大事にしてあげてね。」
白鳥は青山から離れると、肩に手を置きながら皆に宣言する。
依然クラスは静かなままで、ひたすら注がれる視線に青山は泣きたくなった。
あんな場面を見てしまったばっかりに、そしてあんな条件を出してしまったばっかりにこうなった。自分にひたすら心の中で罵った。
先輩は自分を守ろうと必死なのだと思った。だけど、この人は違うと感じていた。
この人はこの状況を楽しんでいる。
そう、思えたから。
白鳥は青山の肩から手を離せば、二度程ポンポンと叩いて「そろそろ鐘鳴るから帰るね」と言った。
青山はただ頷くしかなく、教室から出て行く相手を見送るしか出来ない。
白鳥は笑みを零しながら教室の扉を開けると、廊下に若い女の人が立っていた。
その女性は髪が長く、毛先は緩やかにウェーブが掛かっており上品な印象を与える。首にはMの形をしたネックレスが行儀良く飾られていた。薄水色のスカートスーツの出で立ちは、只でさえ身長の高いその女性を余計に高く見せた。
いつからそこにいたのかは分からなかった。ただ白鳥が中にいる事は知っていた様。
両手に収められている英語の教材をぎゅっと握れば、薄く口紅が塗られた唇がゆっくりと開いた。
「白鳥くん…じゃないの。何しているの?」
「…松本先生」
その女性は、白鳥の現恋人であり教師の、松本晴菜だった。
青山は自分に向けられている視線にやっと気付いた。それは教室にいるクラスメイトからじゃなく、廊下にいる松本からだった。
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