松本晴菜

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いつもの憂鬱な時間が始まる。 D組の授業は、特に。 私はこの学校に就任してから一年余り。少し慣れて来た頃。去年も一年生の英語を担当し、今年も一年生を担当する事になった。 クラスは全部でF組まであり、私はB・D・F組を担当している。 その中でD組が(さっきも愚痴ってしまったけれど)一番大嫌いなクラスだ。 教師だからそんな態度なんて取れないし、授業を怠ったら保護者からの抗議の電話が掛かるかもしれない…そんなプレッシャーの中での授業が苦しかった。 話は聞かない、携帯をいじる、化粧をする、寝る…そんな生徒が集まったD組。一年のなかで最も評判の悪いクラスと言われていた。 そんなクラスを担当すると聞いた時のショックときたら…言葉には出来なかった。 そんな時に、私に優しく接してくれた人がいた。 名前は白鳥瑞稀。 嬉しかった。 一年生の時に彼の授業を受け持って、派手な子とは知っていたし、目立つ子だとも知っていた。裏でどんな事をしているのかも噂で知っていた。 そんな子が私だけに優しくしてくれる。 私だけに微笑み掛けてくれる。 私だけを抱いてくれる。 気付いたら夢中だった。教師とか生徒とか関係ない。ただ恋人として愛しているの。 だけど、私は彼を知らな過ぎた。 今、大嫌いなD組の前にいる。 異常に静かな教室の中から聞こえる声は、いつも私に微笑み掛けてくれる彼の声。 「俺ね、千里と付き合ってんだ。」 私だけの生徒。 私だけの彼。 私だけの恋人。 耳を疑った。ただ扉の前に立つしかなかった。中に入る勇気なんてない。 すると、扉が開き彼が出て来る。 私の顔を見て、私の名を呼んだ。 「…松本先生」 悔しい 悔しい 悔しい… 彼を奪ったアイツが …青山千里が憎い。
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