61人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
青山は音楽室に続く階段を速足に上り、目的地を目指した。軽い息切れと動悸が襲う。
あまり体力に自信のない青山は、この程度で目眩がするほどに体は弱い方だった。ただそれを話すのが面倒で、高校の同級生で知っている人は少ない。
話しても、ただ哀れな目で見てくる…それが嫌いだった。体育は、それなりに運動神経は悪くないから、体力の少なさなどを知られる前に、それを凌駕させるほどのプレーをしてきた。
プライドとかポリシーとかそんなのじゃなくて。
『あの子は私より下で、劣っているんだよ。だから、手加減しないと――ね』
昔、私のいないところで話していた親友を思い出した。
信じていたのに…ずっと私を下等扱いしていたと知ると、親友は親友ではなくなった。
今、細い細い頼みの綱だった松本先生に見離されて、久しぶりに胸が痛んだ。
昔みたいな、あの感覚。
裏切られた、感覚。
私が音楽室に向かっているのは、白鳥に全てを白紙にしてと懇願するためではなく、私を守るため。
他人に頼ったら、自分は自分でなくなる。『助け合い』なんて、親友の裏切りと共に捨てた。
だから私は一人。
今、私に片手を差し出している彼もまた、私を捨てるでしょう?
『遊びのあなたとは違って、私は本気だわ』
先生の言葉が痛かった。
ただの体力不足とか、そんな類いじゃない。
左胸の奥が痛かった。
最初のコメントを投稿しよう!