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青山は階段の踊り場で腰を落とした。左胸の奥がズキズキと、脈打つ速さが速くなっているのは咎められない。 額を伝う汗が、頬を顎をそして足元に落ちると、背中に何かが当たった。 「何ヘバってんの」 振り返ると白鳥が心配そうに青山を眺めていた。 肩に添えられた白鳥の手が、優しく背中を撫でていく。それが心地よくて、目を閉じて呼吸を整える。 すると、3限目の授業開始の鐘が鳴った。鳴り終わる頃には息苦しさは消えていた。 「無理すんなよ、溜めすぎなんじゃないの?」 「誰のせいだと、思ってんの…っ」 口を開けばやはり疲労が抜けてないのに気付いた。当たり前か、と青山は苦笑したが、左胸を苦しくさせるのは他にも理由があるのかもしれないと青山は思った。 背中を優しく撫でる白鳥の、手…なのかもしれない。だけどきっと気のせいだと青山は思いたかった。 「俺のせい?うわ、照れる~」 「………最悪」 やっぱりナシ。こんな奴にときめくなんて。 すると白鳥が青山の背中を撫でていた手を、回して抱き締めた。青山は白鳥に視線を向け何か反抗しようとしたが白鳥に止められた。 「千里は…イイコ過ぎだよ。たまには、吐き出しちゃえばいいのに」 「知らないわよ、そういう性格だもの…」 こんな時に限って『千里』って呼ぶなんて、意地悪だ。段々胸が苦しくなってきた。 『慰めてやる』って、こういう事なんだって思った。確かに、さっきまで感じていた苛々や、吐き出せそうにもない気持ちがどこかに消えていく気がした。 だけど、胸が苦しい気がする。 白鳥が触れる場所がすごく熱い。 「ねぇ、白鳥先輩。私を守ってくれる?」 「うん、約束したし、俺がいる限り守ってやるよ?」 全てから思考が遮断されていく。なんて甘くて、苦しい魔法なんだろうか。 「俺の、大事な友達だから」 ねぇ先輩、その『友達』が一番痛いんだよ、知ってた? 言おうとしたが、口は開けなかった。今のままで良いと、心が囁いたから。  
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