出会い

2/3

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
音楽室の窓からは、傾き始めた太陽の朱色が教室に注ぎ込んできていた。ピアノから反射される光は、自分より背の小さな男の指で喘がされている、女教師の服から覗く胸に届いていた。 彼女の口から止めど無く洩れる息遣いと声に、異様なまでの優越感に浸り、微笑む男は白鳥瑞稀という。 年下の男、しかも教え子に乱れた姿を見せる女に冷たく笑みを見せると、白鳥の指は一層意地悪く動かす。 「―っ、白鳥…くんっ」 嫌だと首を振る先生を無視しながらも、彼女の表情を、仕草を、体を見つめ続けていた。 「先生ぇ、二人の時は名前で呼んでって約束じゃない…?」 「…ぁっ」 白鳥にそう耳元で囁かれると力が抜けたような甘ったるい表情で、床ばかり睨んでいた先生は顔を上げて、恥ずかしそうに頬を染めた。 「ね?先生…」 白鳥は彼女の長い髪をゆるく掴むと自分の方へと近付かせ、名を呼ぶようにと促す。 口許をパクパクと動かすが、白鳥の指の動きに吐息で消えて行く。 その姿を満面の笑みで見つめる。白鳥は、ああ…僕は酷い人間だなぁ、と心中で呟いた。決して反省の色は示さない笑顔のままで。 「白…、瑞きぃ」 「うん、なぁに?先生……」 息が絶え絶えながらも、やっと自分の名を呼んだ彼女が愛しく思え、少し自分より高い先生の首に腕を回した。 そろそろラストスパートだと白鳥は思いベルトに手を掛けると、音楽室の扉が開くのを開いた音を察知した耳だけが捉えた。 思考だけは止まったまま―。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加