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扉が開いたのは感じた。人がいたのも確かだ。だけど人影は無かった。
廊下からは走り行く足音が聞こえていた。
隣りで急に泣きじゃくる女に苛立ちを覚え、聞こえないように舌打ちをする。
まぁ、教師が生徒に手を出していたら処分されるのは教論だろう。誘ったのは先生ですって嘘を言えばいいか、とか、単位を落とすと脅された、とか言おうと頭の隅で考えていた。酷いのは僕じゃない。隣りで泣いているこの女は、自分の処分が怖くて泣いている。僕の事なんてどうせ全然考えてないんだから、お互い様だ。みんな自分が可愛い。そんなもんだ、人は。
白鳥はハニーブラウンの肩まで着く髪を揺らしながら扉に向かった。前髪をかき上げた時に、ふと何かが落ちているのに気が付いた。
「……一年D組、青山千里」
ふと名前を呼んだ。
床にはピアノの教科書が落ちていたのを拾えば、先生に気付かれないように制服の中に入れて隠した。
今見せたら、ほんとに脅しに行きそうだし。
一呼吸すれば先生の方を振り向き、笑顔で歩み寄り抱き付く。泣いていた彼女は驚いたように泣き止んだ。
「白鳥くん…どうしよ、私っ……」
「大丈夫だよ」
小刻みに震えるのが分かったから、もっとキツく抱き締めた。あんまりにも弱い表情を見せられると、楽しくてしょうがないじゃないか。
抱き締めた後の反応もいい。
「僕に任せて、ね」
顔を上げて、少し背伸びをして口付けをした。そう言うと彼女は緩く笑みを浮かべた。
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