波多高男子

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「英語の松本とヤってるとこ見られたんだっけ…その一年はどうしたんだ?脅し?」 その五十嵐の一言に、雨宮と稲村はその場に立ち往生したまま固まった。それに気付いた白鳥は不思議そうに、立ち止まる雨宮と稲村の方へ振り向いた。 「なに、どうしたの?」 「どうしたじゃねぇよ!!何でそんな面白い事黙って―――、痛っ」 的外れた事を口に出す雨宮の後頭部を、稲村が叩きながら焦ったように言葉を続ける。 「そうじゃないでしょ!瑞稀…今からどこに向かうつもりなの?その先は…」 「うん、一年の教室棟だけど?」 そうサラリと続けると笑顔を浮かべたまま、鞄の中から音楽の教科書を取り出して稲村に見える様に、顔の前へ上げた。その教科書を見た稲村は眼鏡を中指で上げながら白鳥に視線を返す。 「教科書…その子落として行ったみたいだから、届けに行くんだけど…ダメかな?」 口許は微笑んだまま、確かに楽しそうな笑みを浮かべて言った。その後に、他に何かあるとでも?と付け加える。稲村は勝ち誇った表情を浮かべる白鳥に溜め息を吐きながら、何も言葉を掛ける事なく自分の教室へと向かって三人を置いて歩いた。 「ちょっ…あき!つか瑞稀、あんま苛めんなよな。その一年も、あきも!!」 先に行く稲村を追い掛ける様に雨宮も走り出すと、白鳥に振り向いてそう言い人込みに消えて行った。 白鳥は鞄の中に教科書を押し込みながら、自分が説教されているように思え口許を尖らせる。そんな白鳥の肩に手を置いて、五十嵐が苦笑を浮かべ小さく呟いた。 「あんま焦んなよ、何かあったら俺に言いなね。年下なら得意だから。」 片目をウィンクしながら言うと歩き出して、振り返る事なく手を振った。 白鳥はその後ろ姿を見送り、一年の教室棟へと歩き出した。一年D組の青山千里を口止めするために。
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