83人が本棚に入れています
本棚に追加
見間違えだったのか。
愛理が見たものは。
平良は海に歩き、遠くに映る船の灯火を眺めている。
愛理もその横に佇んだ。
平良の腕の中を見る。
何もない。
薄い明かりでも、そのことは分かる。
やっぱり見間違えだったのだ。
夜になって、少し不安になっただけなのだ。
まさか、平良がドロドロに膨れた水死体の頭を抱えている訳がない。
愛理はそう妥協すると、胸を撫で下ろし、平良に背を向けた。
「帰るね。資料集め、頑張って」
「うん。ありがとう」
チラリと肩越しに後ろを見ると、平良が無邪気に手を振っていた。
面白くて、何だか可愛くて、愛理は先程の感情など忘れて、小さく微笑んだ。
少し頬が熱くなったのを気づかれない様に、再び自転車に跨り、ゆっくりとこぎ出す。
最初のコメントを投稿しよう!