雨の手

5/20
前へ
/274ページ
次へ
見間違えだったのか。 愛理が見たものは。 平良は海に歩き、遠くに映る船の灯火を眺めている。 愛理もその横に佇んだ。 平良の腕の中を見る。 何もない。 薄い明かりでも、そのことは分かる。 やっぱり見間違えだったのだ。 夜になって、少し不安になっただけなのだ。 まさか、平良がドロドロに膨れた水死体の頭を抱えている訳がない。 愛理はそう妥協すると、胸を撫で下ろし、平良に背を向けた。 「帰るね。資料集め、頑張って」 「うん。ありがとう」 チラリと肩越しに後ろを見ると、平良が無邪気に手を振っていた。 面白くて、何だか可愛くて、愛理は先程の感情など忘れて、小さく微笑んだ。 少し頬が熱くなったのを気づかれない様に、再び自転車に跨り、ゆっくりとこぎ出す。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加