絵描き仲間の日常

2/8
前へ
/274ページ
次へ
天気、快晴。 しかし、カーテンが閉められた部屋は薄暗く、太陽の恩恵を拒絶している。 様々な画材が散乱する机の上、書きかけの油絵。 絵の具の匂い。 石膏像の視線が混じる誰もいない美術室は、独特な雰囲気を醸し出していた。 「あーあ。また1番のりか」 そんな静かな美術室に男子生徒と思われる声が響き渡る。 思ったよりも大きく響いた自分の声に、大橋龍人(おおはしりゅうと)は苦笑した。 今週は掃除が休みだった為、自由になるのが早いのだ。 男声というより、中性の声を持ち、華奢な体で着崩した制服。 禁止されている筈のカーディガンを着用し、その下にはくズボンのみが、彼の性別を示している。 ふと龍人はある部員のキャンバスに目を移した。 あいつ、また海描いてんだ… 龍人の目線はその絵の隅から隅まで撫でる。 やはり上手い。 美大を目指す奴は違うな。 その絵、濱崎平良(はまざきたいら)のキャンバスに描かれた美しい海の絵は、部室の後部に幽幽とその姿を晒していた。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加