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朝から電車に乗った。
七時半発の電車は、通勤通学の人間で混む。私の住む県は特に都会ではないから、この土地で「満員電車」を見れるのは、平日のこの時間帯位だ。
座れる訳も無く、吊り革に掴まって運ばれる。カーブに差し掛かると、遠心力で身体が引っ張られ、身体に吊り革が引っ張られる。薄汚れた吊り革は、みしみしと言いながら私の体重に耐える。
もし、この吊り革が突然ぶちりと切れたら、どうなるだろう。
きっと私はすっ飛ぶ。私だけじゃない。そもそも切れないという前提があって吊り革に掴まっている人々は、みんなすっ飛ぶだろう。
あっちにすっ飛びこっちにすっ飛び、サクマドロップの缶を振ったようになる。電車は缶だ。ドロップである乗客は、成す術も無くばらばらと散って、あちこちで「痛い」とかいう声が響くのだ。怪我人だって出るかも知れない。ピンヒールに踏まれて穴が開いたり、受け身に失敗して床や壁にぶつかって、骨を折ったりする。
中には、これから何か、人生を左右するような試験や会議に行く途中の人もいるだろう。彼らが負傷してその試験や会議に行けなくなると、それは大事だ。
そういう人達の人生を預かっているのが、薄汚れた吊り革達だ。毎日毎日引っ張られたりぶら下がられたりしても絶対に切れないのは、きっと、吊り革の方でもそれを解っているからなのだ。
吊り革って、偉いと思う。
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