融けていく雫

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 店の裏口にある自転車置場に自転車を停めて、涙を拭いて鼻をかみます。深呼吸をして、息が途中で止まって、しゃっくりみたいな音が鳴りました。何度か深呼吸を繰り返して、もう一度鼻をかんで、店に入ります。道中で取り乱していたのが嘘だったかのように、気分は静かになりました。私は考えるのを止めていました。    店に入って、先に入っていた方々に挨拶をします。店長以外、誰も返してはくれませんでした。以前は店長もそれを気にして注意して下さっていたのですが、最近は気にならなくなってきたようです。私も気にならなくなってきました。彼女たちにとって、私はいないものなのです。ため息が漏れそうになって、すぐに口をつぐみました。そういうことをするとき、私の存在は彼女たちの中で突然膨れ上がるようで、彼女たちはそれを舌打ちして教えてくれます。    トイレの個室のような広さの更衣室で制服に着替えます。制服の袖で手首が隠れるようにしてからリストバンドを外そうとして、新しい傷に引っ掛かって、そこが少し痛みました。髪を後頭部で結んで、髪が全部隠れるような帽子を被りました。    うちは食品を扱う店なので、その厨房に立つ従業員は髪の毛が混ざらないようにこのような帽子を被らなければなりません。最初は少し恥ずかしかったこの帽子も慣れて、もうなんてこともなくなりました。慣れっていうのは怖いものです。    タイムカードを機械に挿して、日付と時間が書かれたのを確認して、元の場所に戻します。胸では心臓が大きく鼓動を打ち鳴らしていました。私はそれを聴きながら、重い足取りで店の厨房へと向かいました。歩きながら、今日こそ失敗しませんように、今日こそ店長に怒られませんようにと必死に祈りました。    祈りが届いたことは一度もなかったけれど、願わずにはいられないのです。この時間が、できればもう迎えたくはないと思うほどに恐ろしいのです。    そんな自分が情けないけれど、私にとってこの職場はそんな場所なのです。
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