融けていく雫

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 私はゆっくり首に手を掛けました。喉はまだヒューヒューと音をたて、顎と喉の間くらいのところに焼けるような痛みがしました。  死ぬ前には生き物はより多くの情報を取り込もうとするときいたことがあります。  だからなのか、今は視界がはっきりとしていて、忙しそうに私の後始末をする皆さんの姿が見えました。最後まで迷惑かけて申し訳ありません。  手に、思い切り力を入れました。ヒューヒューという音が、尻つぼみに消えていきます。  瞬きを、ゆっくりと、一度だけしたら、また視界がぼやけました。どうやら私はずっと泣いていたようです。勢いよく流れた雫が頬を伝って制服に落ちました。雫はすぐに制服に吸われて見えなくなりました。  頭が痛いです。でも息がは不思議としたいと感じませんでした。  視界が白と灰色と青や赤なんかのぼやけた丸だったものから、白と灰色だけになって、灰色だけになって、それがだんだん暗くなっていきます。それと同じように音もだんだんそこから遠退いていくかのように小さくなっていきました。腕はもう力一杯絞めているはずなのに、力が入っているかどうかは解らず、ただ息ができないことだけが解ります。口の中では泡ができたり弾けたりしながら、だんだん口の中いっぱいに増えていきます。泡が口から溢れ出たのを感じながら、私は意識を手放しました。    死ぬときも惨めだなんて、なんて残酷な世の中なんでしょう。
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