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月。
闇に包まれた夜空に、妖しげに輝く月が浮かぶ。 ざわめきと灯りに彩られた繁華街の裏、誰も通らないような街の裏に、死体が一つ転がっていた。
首と体が別の個体となり、切り口から流れる鮮血が、僅かな月明かりに照らされる。 物言わぬその頭と、動くことのない体から、死体が女だとわかる。
「……綺麗だ」
ぼたぼたと、鋭く光るナイフから同じ色の血が垂れて、コンクリートに落ちた。 月明かりがより一層差し込み、ボタンを外した紺色の、大きめのブレザーを着た、栗色の髪の男が姿を見せる。
弐谷早紀(にたにさき)は、殺人鬼だった。
なろうと思ってなったわけではない。 中学校に入学したあたりから虫や犬など、小さな生物を殺しはじめ、気づいたら、人を殺していた。
それは、160いくかいかないか(寝癖がひどいときはいく)のギリギリの身長への怒りかもしれない。 時々女と間違われナンパされてしまう可愛らしい顔への憎しみかもしれない。 もしくは、両親に嫌われ、一度として抱かれた記憶すらないのも、あるかもしれない。 そのどれでもないかもしれない。
意図してなったわけではいのだから、それは早紀ですらわからないのだ。
「……月が、綺麗だ」
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