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頭上に輝く月を見上げ、早紀は小さく溜め息を洩らす。
「……っ! やべ、明日から学校だった! 寝坊しちまう……!」
げ、と午後の10時を指すデジタル腕時計を確認し、ブレザーの内ポケットにナイフをしまう。 表の通りに飛び出し、早紀は急いで走った。
「――ねむ」
翌朝、というよりは昼、予想通り寝坊した早紀は高校三年の初日を潔く諦め、居間のソファーに寝転がった。
広めの一軒家で、4人家族の暮らせる家具と、男には似つかわしくない(早紀の顔には似つかわしい)ぬいぐるみがいくつかある。
両親は数年前に早紀を捨てて家を出て、別のどこかでおそらく仲良くやっているのだろう。 最後に言われた言葉が「お前はどうして女に生まれて来なかったんだ?」だったから、早紀には忘れ難い、悲惨な過去として心に残っている。
存在を否定された気がした。
それまでもほとんど話しすらしなかったのだが、それ以来は遭ってすらいない。
「……考えてみりゃあ、ひどい話だ」
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