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車の中、私達はまるで前から知っていた様に自然に接する事が出来た。
「何食べたい?」
「う~ん…何でも。遠かったでしょ?」
「いや、案外近いな」
そう言って彼はにこっと笑った。
営業マンである彼はスーツ姿が良く似合っていた。
たぶん普通に格好いい。
あたし、隣にいて変じゃないかな??
「車、あたしが乗って平気なの?」
「何が?」
彼はあたしの質問に不思議そうな顔をした。
「ほら、奥さんにさ、『これ私の髪じゃないわっ!』的な?」
すると彼はぷぷっと吹き出して笑った。
「大丈夫だよ、これ俺の車だから」
「……ん?」
意味が解らないあたしは彼に聞き返した。
「俺の営業車。仕事用だから奥さん乗らないの」
なる程ね。
「そっか。じゃあ安心だね」
バレたら大変だもんね。
そうしているうちにいくつかの飲食店が見えてきた。
「スパゲティとかいける?」
「うん。いいね」
入ったお店は初めて見るお店。
「ここ初めて来た」
「本当に?有名よ?割と」
そして上手に片手でハンドルを回しながら車を駐車場に止めた。
さて、降りますか…そう思った瞬間彼の携帯が鳴り響いた。
ドキっとした。
彼は徐に携帯を開くと、ごめん、と一言言った。
あたしは黙ってコクンと頷く。
「ーあっ、もしもし。お世話になりますーー…」
どうやら仕事の電話らしい。
忙しいのかな?
ちょっとだけ不安になる。
それから二分くらいすると、彼は電話を片手に、空いている方の手で、ごめんとジェスチャーした。
あたしは笑いかける。
"大丈夫だよ"と伝わる様に。
そして数分後電話を終えた彼は謝った。
「ごめん!またせちゃって。行こうか」
「うん!」
車を降りると後部座席のハンガーに吊してあったスーツを羽織り、あたしの前を歩いて行った。
階段苦手だってメールで話したのを覚えていたらしく、階段ではあたしを気にして振り返りながら歩いてくれた。
彼はカルボナーラを注文。
あたしはミートソースを注文。
昼時を少し過ぎていたからか、店内は割と空いていた。
スパゲティ屋なのに置かれているのはお箸?
それに一番驚いた。
そう言うと彼はまた笑った。
足を組んで座る彼が、一つしか違わないとは思えないくらい大人に見えた。
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