お兄ちゃん。

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あたしはここぞとばかりにパパの愚痴を話したと思う。 それからチビの話しも。 彼はあたしの話を嫌な顔一つしないでちゃんと聞いてくれた。 でも自分ばかりが話しているのも何だか嫌で。 「奥さんはどんな感じなの?上手くいってないの?」 「うちのはねぇ、ちょっと癇癪持ち?すぐ怒るからさ。よく殴られてるわ、俺」 冗談混じりにそう言った。 「俺の一方通行的な感じかな?子供にばっか構うしさ、食いもん投げたりされるんだぜ?」 うちのパパも割と自己中で参るけど、彼の話を聞いてると、それはそれでまた悲惨。 何だか可哀想になっちゃって。 食事を終えると彼は言った。 「まだ時間平気?」 「うん。保育園のお迎えまでだからまだ平気」 あたしがそう言うと、彼は最近出来た大型のショッピングモールまで連れて行ってくれた。 実はまだ行った事が無かったから、わくわくした。 パパは絶対連れて行ってくれないもの。 移動する車の中では参加していたコミュニティーサイトの話しなんかをした。 「さくら…?」 呼ばれてみて変な感じがした。 あたしがきょとんとしていると彼は不思議そうにする。 「どうしたの?」 「いや、あたしあれ、本名じゃないからさ。呼ばれて変な感じがしたの」 「そっか。そう言えばさくらは俺の事呼ばないね?呼んでみる?」 イタズラっぽく笑う彼。 「お兄ちゃん?」 迷いなく呼ぶあたし。 また笑う彼。 「ははっ。お兄ちゃん…か。本名はね、小泉浩だよ。さんずいに告げるで浩」 「あたしはね……何だと思う?」 「ずるいな、それ。分かんないよ」 そして二人で笑う。 楽しい時間。 モールでは広い敷地内を二人並んで歩く。 初めて訪れる場所にうきうきしながら。 「あたし写真と違うでしょ?詐欺だと思った?」 唐突にそう言うと彼はあたしの目を見て言った。 「実物の方が可愛いよ?」 照れもせずに堂々と。 嘘でも嬉しかった。 二人でアイスを食べた。 お互いに交換したり。 あたし達が別々の家庭があって…なんて事は周りには解らないんだろうな…。 彼の薬指に光る指輪を見て、そんな事を考えた。
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