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翌日から浩とのメールのやり取りは毎日。
浩は一日三十通はメールをくれた。
朝のおはようから始まり、仕事が終わって帰宅する時にはちゃんと連絡をくれた。
勿論朝は家を出てから、帰りは帰宅するまでの間しか連絡は取れない。
夜になると憂鬱になったり、寂しくなったりするあたしには悲しい現実。
それでも仕方ない。
そういう立場だし、そういう恋をしてるんだから。
土日、連絡の取れない長い長い二日間を過ごして月曜日に彼からメールが届く。
休日がこんなに疎ましいと思ったのは初めてだった。
【おはよう、恵莉。今週もちばってこうぜぃ(^_^)/】
【ちばってってどういう意味??】
【沖縄の言葉で、頑張るって意味!ところで恵莉ちゃん、今週の予定は?】
この会話は彼との恒例になる。
毎週月曜日の。
あたしはその週の予定を教え、浩はそれに合わせて仕事の予定を組む。
その約束を支えにまたあたしは頑張れる。
パパの横暴な態度にも、家族の圧力にも、チビの我が儘や泣き声すらも。
我慢が出来なくなっていた、あらゆるものを受け入れられる。
穏やかな気持ちで。
これは浩の力。
魔法にでもかけられた気分だった。
【今週は水曜日で。休みが凄く長く感じたよ(-_-;)ね、恵莉?こうやって予定合わせて必ず月一では会える様にしよう?】
そんなの当たり前じゃない?
【そうだね。お互い忙しいだろうし、前もって合わせておかないとだもんね。】
月一、初めはそれでも会えるなら充分なはずだったのに…。
人はどんどん欲張りになる。
【電話したい】
夜、突然そんなメールがきた。
これから帰宅する彼。
会社から家までは徒歩で十分程度だと聞いていた。
許された時間はその短い間。
あたしはタバコを買いに行くと嘘をついて家を出た。
車で近くの自販機前まで急ぐ。
浩はあたしの番号をしらない。
あたしは車を停車させると、初日に送られてきた浩の番号をゆっくりと押した。
発信ボタンを押して、高鳴る心臓の音を感じた。
声が聞きたい。
彼はどんな風に話すのだろう?
『もしもし?』
低音で話す声はあたしの耳に入り込む。
響いた言葉は頭の中から離れない。
それは優しく、優しく、声だけで抱き締められている様な感覚に酔いしれる。
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