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二人の間に気まずい沈黙が落ちる。ワンコがいれば緩衝材になってくれただろうが、前述したように今はカナの部屋だ。
長い沈黙の後、先に口を開いたのはユウキだった。
「……いい機会だしさ、誓約の術を破棄しよう。お前がかけたんだから、簡単だろ」
「……いいのか?」
「今更嫌とは言わねーよ」
解くときも両者合意でなくてはならないので、再び手を合わせる必要がある。ほら、とユウキはヨシトに手を差し出した。
「……もし、僕がバラしたらどうするんだ?」
「それ、お互いにメリットねーだろ。それに、バラすような奴なら、一緒に謹慎くらうより俺に全部押し付けてるだろうし? けしてカナさんが怖いからじゃねーぞ。……信用、してんだからな」
まだ一週間ちょっとの付き合いだが、ユウキにはヨシトが真面目一直線な性格なのがすぐにわかった。
頑固で融通がきかない割に、納得すればちゃんと方向転換出来るだけの柔軟性もある。その彼が黙っていると決めたら、それは絶対なのだ。
……と思えるくらいに、信用している。
ヨシトはヨシトで、ユウキが噂とは全然違う人間だと知っている。本当は魔法自体使えないから、大統領府の隅っこで書類仕事をするのが夢なんだとすんなり納得しているし、高飛車に見えるのは口が悪くて率直なだけで、他意はない。
噂とイーシュラーダというフィルターを外してしまえば、普通にどこにでもいそうな奴、それがユウキへの評価だった。
ヨシトはユウキと、最初と同じように手を繋いだ。……この瞬間だけは、どうにもしょっぱい気持ちがする。
「『我、汝との誓約を合意の元に破棄する……解呪』」
カチリとどこかで鍵が外れたような音がする。誓約の術を行使した者同士にしか聞こえないが、これはきちんと解呪された証拠だ。
「ところで、夕飯食べてくか? カレーだけど」
「マジで!? ……あー、ダメだ……、学校から連絡行ってるだろうから、帰んないと……」
ユウキの憧れその二。友達の家で夕飯にお呼ばれ。
しかし、明日から謹慎の身でそこまで遅くなってしまうのはまずい。泣く泣く、今回は諦めるしかなかった。
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