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茶室など、普通一般家庭にはない。
ユウキはキョロキョロと部屋の中を見回しては、「普通だ」や「面白い」を連発する。
「すげぇ、無駄がない」
「……悪気ないのは分かるけど、そろそろ怒ってもいいか……?」
ヨシトの中でユウキは『天然の無礼者』という称号を得た。
「ほら、見物はそのくらいにして、僕の部屋に……」
ワンコとユウキが、探検と称しいろんなドアを開けるのを見かねたヨシトがこっちと手招きするのと同時に、ガチャリと玄関の戸が開く。
「ただいまー、ヨシトご飯作ってー」
「あれ、カナちゃん? 何でこんな時間に?」
6つ上の姉であるカナは、ヨシトと似通った面立ちに、赤みがかった茶髪の美人だ。彼女は高等魔術学を学ぶ院生で、研究に明け暮れ滅多に早い時間に帰宅することはない。
問うたヨシトへ、カナは美麗な顔を盛大にしかめてみせた。
「それがさあ、最終の最終なのに、グループの奴が穴だらけの陣設計図持ってきやがってさー、話にならないから帰ってきた。発想はいいけど、死ぬ気かってーの!」
あれじゃハーピーすらまともに呼べない、カナが愚痴りながら冷蔵庫を開ける。そしてペットボトルのサイダーを取り出すと、リビングのソファーに勢い良く座った。
ペットボトルをラッパで飲み、溜め息を零す。
「あーあ、ヨシトがうちの大学来たら、超助かるのに……?」
一心地ついたカナは、そこで漸くワンコに気付いた。
自分の前で、尻尾を振りつつ行儀良くお座りをするワンコを不思議そうに見ながら、カナがヨシトに尋ねる。
「……つーか、何でケルベロスがうちにいんの? 飼うの?」
「えー、これは話せば長いことながら……」
どこから話すべきかとヨシトは一瞬悩む。自宅謹慎になったことを言わなければならないが、それにはユウキの力についても話す必要が出て来る。
口裏は、勿論合わせていない。
「こんにちは」
「お、新顔だ」
「初めまして、ユウキ・イーシュラーダです。ヨシト君にはいつもお世話になってます」
特大の猫を被り、ユウキが無駄に爽やかな挨拶をする。初対面の人に対するユウキなりの処世術である。
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