全ての始まりの日

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『魔法という技術を発見したのがシュレックス・ロード博士だという事実を知らぬ者は、年端のいかない幼子を除いて、この世界に存在しないだろう。 博士は発見したそれに、「魔法科学」と名付けた。 当時は一笑に臥されたものの、博士がその利用法を見いだすにつけ、世俗にも、おおっぴらに魔法科学を利用する人々が現れ始めた。要は、先天的に魔法を身に付けていたのだ、彼らは。 異端とされていた彼らが、逆に褒めそやされるようになる迄には時間がかからなかった。 そして、世界は発展した魔法科学により、混沌の時代へと突入した。 血で血を洗うような争いが、数十年の永きに渡って続けられ、地球の人口は三分の二に減った。 誰もが、長く終わりの見えない、利のない戦争に疲弊しきっていた時、「彼」は現れた。 「彼」は紛うことなき天才だった。詠唱も無しに最上級の魔法を操り、全てを従わせる圧倒的な力を持っていたのだ。 そして、政治家でもあった。 天賦の才能とカリスマ性で、あっという間に荒んだ民衆の心を掌握し、下らぬ争いの種である「国」の概念を棄てさせ、何もかもを一から作り上げたのだ。 そして現在の統一国家が出来上がったのである。 (スバル・ロイヤー著、「歴史の考察」より抜粋)』 だがしかし、稀代の天才と歴史に名を残す「トール・イーシュラーダ」が、同時に稀代の詐欺師であったと知る者は皆無なのである。 それから二百年、奇しくも同時期、二人の赤子がこの世に生を受けようとしていた。 所は、かつて島国であった地区の中央都市。 片方は魔術士輩出の名門と呼ばれる『イーシュラーダ』家。 もう片方は、極平凡な普通の家庭に。
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