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弟の笑顔の迫力に、カナは内心冷や汗ものである。
カナが十七年前に願った通り、妄想癖は遺伝しなかったものの、ああみえて国立魔法研究所の主任研究員である父親の遺伝子をヨシトはばっちり引き継いでいる。
故に、普段から自分の研究内容について助言をもらっているカナは、弟に頭が上がらないのだ。
だが、そこでユウキがヨシトの脇腹をつつく。
「ヨシト、うっかりバラした俺が言うのも何だけど、あんま言ってやるなよ。俺らだって……」
ユウキは今からのことを考えると頭が痛い。両親はともかく、弟がどういう反応をするのか、全く見当がつかないのだ。
ヨシトはふっと溜め息をついた。
「カナちゃん、実は三日間の自宅謹慎になった」
「――――は?」
カナは弟の発言に耳を疑った。
ヨシトは柔らかく苦笑を浮かべ、ユウキはバツが悪そうにしている。
この品行方正、眉目秀麗、真実一路、……後半は何かが違うが、とにかく真面目の塊みたいな弟が、自宅謹慎!? とカナは目を瞠った。
「……何やったの? 喫煙・飲酒の類って訳じゃないだろうし、あたしみたいにこっそり非行に走ったとか……じゃなさそうだし……」
ヨシトとユウキは苦笑を浮かべ、お互いに顔を見合わせる。
「試験の予行練習してて、図書室全焼させそうになっちゃって……」
「全焼!?」
「あー、それについては俺も責任がありまして……」
ヨシトのお姉さんだし、カナなら信用してもいいだろう。ユウキはそう判断して話し始めた。
「……と、まあこういう訳でして」
「むぅ……信じていいのか悪いのか……」
ヨシトがユウキの話を信じられなかった程度に、カナもユウキの体質に対して眉唾だった。
しかし、ヨシトが一人で術を行使したとしても、図書館を燃やしたり、森を焼いたりする程の出力はない。
それは姉であるカナが一番良く知っている。
(……信じがたいけど信じるしかないみたいね)
「これ、トップシークレットなんで、よろしくお願いします」
「僕は誓約の術がかかってるし、カナちゃんは口が固いから大丈夫だよ」
ヨシトは軽く笑った。
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