全ての始まりの日

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「お生まれになりました! 五体満足な男の子ですよ!」 出産が行われた部屋の外で今か今かと待ちわびていた当代当主、ラルクウッド・イーシュラーダはそれを聞いた途端に、妻のいる部屋の中に飛び込んでいった。 大の男が三人は並んで眠れるだろうサイズのベッドに、彼の愛妻はぐったりと横たわっている。その傍らに走り寄って、ラルクウッドは妻の手を優しく握り締めた。 「よくやった! でかしたぞリタ!」 「あなた……、わかったから黙れ」 いつもの聖女のような優しい美貌に、疲れの色を滲せた穏やかな笑みをたたえている妻は、騒々しい夫にそんな言葉を投げつけた。 「リタ……、そんな冷たい所も好きだよ」 「知ってる。でも、今は疲れてるから、黙れ」 熱っぽく囁かれても、あくまでも笑顔を崩さず、リタは夫の台詞を一蹴する。 二人の表情だけを見ていれば、非常に感動的なシーンだ。その場にいた誰もがそう思っていた。 「――あのぅ、大変言い難いのですが……」 「何だ?」 微笑ましい(?)やりとりに口を挟んだのは、産婆のお抱えである、若い治療術士の女性だった。 ラルクウッドの顔には邪魔をするなとくっきり書いてあったが、そこで臆して止める訳にはいかず、彼女は意を決して重要事項を口にした。 「お子様にちょっと問題が……」 耳打ちされた内容に、ラルクウッドは目を瞠った。 「……嘘だろう?」 「いいえ。今時希少価値ですよね……」 若い彼女の口調では解りにくいが、それは大変なことだろう? ラルクウッドは胸の内で突っ込む。 ちょっと所の問題ではない。希少価値どころか、そんな人間は存在しないことになっている。 赤子の誕生で室内には喜びが満ちているというのに、ラルクウッドはがっくりと肩を落とした。 「……こいつの将来はペテン師か、はたまた……」 侍女が抱く我が子は、何も知らずによく眠っている。 可哀想に。 ラルクウッドは我知らずそう呟いていた。 ところ変わって、こちらは一般家庭のオハラ家。 「ねー、まだあ?」 やはり妻の出産にしたがいうろうろとする男が一人。その傍らには、まだ幼い娘が自分の弟の出生を待ちわびていた。 「私、お姉さんになるんだよね」 早く会いたいなとなかなかに可愛らしいことを言っている。 「……初産でもないのに時間がかかり過ぎじゃ……、何かあった? いや、まさか……」 「パパ心配し過ぎー」
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