全ての始まりの日

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自分のインナーワールドに入り込む父親のユウスケは、けらけらと笑う娘のカナには目もくれず、ぶつぶつと呟く。 「もし大変な事態が起きて、妻と子供の身に何かあったとする。僕はその時冷静でいられるだろうか。いや、無理だ。この病院を焼き払うくらいはするかもしれない。そうなると、捕まらないようにするには……」 「……パパ、その妄想癖なんとかならないの?」 僅か六歳にして父親の奇行に慣れきってしまっているカナは、注意するだけでいつものことと流した。 その時、分娩室から産声が上がり、ユウスケはピタリと動きを止めた。 「オハラさん、おめでとうございます。元気なお子さんですよ」 「良かった! 犯罪者にならずに済みました!」 「は?」 看護士にとっては、脈絡の無さ過ぎる言葉だ。怪訝な顔をした彼女に、カナはすみませんと一言謝罪する。 「こちらの話ですから、お構いなく」 六歳の子供の台詞ではない。 ぽかんと口を開けている看護士に、カナはすかさず、「それで、母は大丈夫なんですか」と尋ねた。 「あ、えーっと、母子共に健康です。もう少ししたらお部屋に移られますので、そちらでお待ち下さい」 何故私はこんな子供に敬語を使っているのだろうか。看護士はこの時そう思ったらしいが、カナには子供扱いを許さない迫力があったという。 「ありがとうございました。パパ、行くよっ」 「カナ、将来非行に走った場合、どうしたらいいと思う?」 「そんなことは将来考えて。それから、弟が非行に走る前に、私がグレないように気をつけて」 尚もしょうもないことを心配し始める父親を、カナは蹴飛ばして連れて行った。 「……変な親子……」 それを見送りながら、看護士は呆然と呟いたのだった。 新生児室の子供を眺め、ユウスケは感動に涙ぐんでいた。そんな彼をカナは白けた思いで眺めている。 彼女も嬉しいのだが、自分より先に、どんだけぇ? と突っ込みたくなる程喜んでいる父親と一緒のレベルに落ちたくなかったようだ。 「ユウちゃん待望の男の子だよー! いやあ、ちっちぇー生き物はいつ見ても可愛いねぇ」 「ママ、それはないでしょ。お猿みたいでも、一応人間なんだから」 カナの突っ込みに母親のルナは、失敗失敗と頭を掻いた。
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